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子はかすがい?

中国朝鮮族である妻の親戚夫婦に20歳になる一人娘がいて、今年の5月に留学しているアメリカの大学を卒業する。
彼女は化学者への道を歩んでいて、あと5年間、大学院での博士課程に進む。

すでにイエール大学、コロンビア大学の合格が決まり一族で喜んでいたのだったが、つい先日、ハーバード大学、続いてスタンフォード大学からも合格通知が届いた。
合格と云っても単なる合格ではないことを知って驚いた。

どの大学も今後5年間の授業料は全額免除なのだが、イエール大学の場合は、在学中は年間3万6000ドルが支給され、住宅も与えられる。
コロンビア大学の方はもっと待遇が厚く、年間支給額が4万1000ドル、高級住宅を保障してくれて、学部長の研究室付きというものだ。
スタンフォード大学は4万6000ドルを提示している。
ハーバード大学からの条件は間もなく届くことになっているようだ。
各大学共に合格というよりもまさにリクルートである。

本人の優秀さもさることながら、アメリカという国の人材育成あるいは才能確保のための投資の凄さが分かる。
アメリカに世界の頭脳が集積されるのも頷けるし、これが大国アメリカの底力というものなのだろう。

彼女は中国の東北地方で生まれ、朝鮮民族の小学校に通った。
2年生の時、教師から理不尽な叱られ方をされたと納得できずに登校拒否を始めた。
親戚夫婦の一族はその地方の有力者だったこともあり、その教師と校長が家に謝りに来たというが、本人は登校を拒否し続けた。

仕方なく母親は漢民族の小学校に転校させる。
中国に住んでいても朝鮮族で中国語とはほとんど無縁だった娘は、それまで韓国語しか話せなかったのだが、言語のハンデはすぐに乗り越えて、瞬く間に学年で一位の成績をとるようになった。

3年生の時に娘は突然母親にこんなことを言ったという。
「お母さんは私にどんなことをやって欲しいと思っているのか、云って欲しい。どんなに欲張ったことでも良いから」
母親は「国連のような国際的な組織で、何か人の役に立つ仕事ができるようになって欲しい」と応えたという。
娘は「うん、分かった」とだけ答えた。

娘の登校拒否以来、母親は娘の教育に本格的に取り組み始め、中学校からは、家から遠く離れた天津のインターナショナルスクールに入学させ、夫と別居して、つきっきりで娘の面倒をみることになる。
成績優秀だった娘は1年間の飛び級をしての入学だったが、その学校でもずっと1番の成績をとっていたらしい。

ボクがその娘に初めて会ったのは、10年近く前、天津の義兄夫婦の家に兄弟親戚が集まった時だったが、何やら分厚い本を読んでいて、何かと思えばハリー・ポッターの英語の原書だと分かり、へぇーと思った記憶がある。
彼女がまだ中学校に入る前だった。
妻が「大学はどこに行くの?」と聞くと、即座に「ハーバード大学」と当たり前のように答えていた。

その時に弾いてくれたピアノの上手さにも驚いたものだ。
昨年、娘が日本に遊びに来て一緒に食事をした時に言っていたが、ピアノを弾いているお陰でコンピューターなどのキーボードを誰よりも速く打てるそうである。

そんな彼女だったが大学受験で思わぬ落とし穴に陥る。
志望していたハーバード大学に入れなかったのだった。

真偽のほどは分からないが、本人が言うには、学力には問題なかったが、ハーバード大学クラスの名門校は学力だけではダメで、高校生時代のボランティア履歴が必要だったらしい。
中国にはボランティアの考えや制度など無い。
やむなくボストンカレッジに入り勉学の傍ら土日も休むことなくボランティアに励んだようだ。

こうして今回、めでたく大学院からは念願のハーバード大学あるいはスタンフォード大学等々の名門大学に行けることになったのだが、周囲の大喜びにもかかわらず彼女は至って淡々としているらしい。
やっとスタート地点に就いたばかりで、これからが本番だとの感覚なのに違いない。

この娘の合格を誰よりも喜んでいるのは母親だった。
孟母三遷ではないが、娘の登校拒否事件以来、彼女は夫の存在を顧みずに、ずっと娘のためにだけ過ごして来た。
夫婦は形ばかりで遠く離れて暮らしていて一緒に過ごす時間も少なく、当然のことながら、夫婦仲は次第に冷えて行く。

結局、念願のハーバード大学には入れずに留学してしまい、何か面目無さを感じ、また娘が自分の手元から離れたことで、母親は自分の生きがいを一瞬にして見失い、戸惑ってしまう。
娘の勉学のために、夫の住む故郷から遠く離れた天津にわざわざ購入したマンションでの一人での暮らしも、娘が居なくなったことで、その意味を失ってしまった。

さりとて、面目を失ったいま、すでに心の離れた夫のもとに戻る気持ちにもなれなくなっていた。
そして、ボクの妻を頼って東京に身を寄せることとなる。

日本での就労ビザを得て働くことになったが、何か虚しい日々を送ることとなる。
娘の将来に夢を託しつつも、自分自身の生き方を見失っていた。

大学の授業料だけでも年間800万円、生活費を含めると相当な大金となる。
いかに良家の家庭で育った高給取りの役人をしている夫とはいえども、その負担は半端な額ではない。

一族の中からの、何もそこまで無理をして娘をアメリカまで留学させることはなかったのに、というまるで母親を責めるかのような声も聞こえてくるような気配も感じる。
これからの自分自身の人生をどう生きれば良いのか、母親は自信喪失と迷いの中で苦しむ4年近くの毎日だった。

そんな状態の中での今回の各名門大学からの合格の知らせだった。
合格というよりもぜひ入学して欲しいとの強い願いを込めた要請そのものである。

この事実がすべてを変えることになる。
これまで、財産の多くをつぎ込むような留学に疑問を持っていた周囲の人たちの母親への評価が、あっぱれ、良くやった、に変わるし、娘の才能を見事に開花させた賢母ということにもなった。

夫も、これまでの苦労が報われた、と喜んで妻に心を開き始めた。
一時は今後の身の振り方について彷徨っていた母親も再び自信を取り戻すと共に、ついに夫のもとに戻る決心をすることになる。

娘の才能と努力が生み出した結果が、図らずも両親を元のさやに収めることとなった訳である。
昔から子供は両親のかすがいと言われるが、その典型例の一部始終をボクは見てきたことになる。

「将来アメリカに永住するであろう娘が、時には帰省できる両親の居る故郷の家が無いと可哀そうだから」というのが、母親が夫の元に戻る一番の理由であるようだ。
どこまでも娘のために生きる覚悟である。
これが母の愛というものなのだろうか。

「これからは、これまで大きな迷惑をかけてしまった夫にも尽くして行きたい」とも言うが、果たして、この一家に思い描くような平穏な日々が待ってくれているのだろうか。

人はどのような生き方を選択しようと、どのような生きがいを見つけようとそれは自由だ。
しかし、そのために必要な条件があるとボクは思う。

それは自立の精神である。
どんな状況でも振り回されることのない確固とした自立の精神だ。

自分が本当は何がやりたいのか、どのように生きたいのか、を決めてそれを生き切る。
それを支えるのが、あらゆる束縛から解放された精神の自立である。
それは無頼の精神でもある。

この夫婦と娘一家の今後の幸せを心から願わずにはいられない。

   「世に生きる 他に生きる 自分を生きる」


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