テレビ局でアルバイトをした女子大生の話
この4月で大学3年生になる知り合いの女子大生と食事をした時の話である。
彼女はテレビ局の仕事に興味を抱き、つい最近、あるテレビ局のデイリーのワイド生番組の短期アルバイトに応募した。
面接にあたった制作担当者は彼女を見て「この娘は走れそうだな」と面接に同席した同僚に話しかけた後、彼女に向かい「君、走れる?」と聞いた。
「はい、走れます!」と元気よく答えると「それじゃ、走ってもらおうか」と彼女のアルバイト採用が決まった。
それから4日間、朝8時から午後2時過ぎまでの6時間余、彼女は走り続けることになる。
情報系のワイド生番組は、放送直前のギリギリまで取材テープの編集や録音作業を行うといった、滑り込みの作業の連続である。
取材し終えた未編集の素材テープをテレビ局とは別の離れた建物にある編集室や録音所に運び込み、仕上がったテープを再びテレビ局に急いで運ばなければならない。
時間との競争が、その番組が放送されている間中次から次へと休みなく続く。
何十本という大量のテープがテレビ局と編集室や録音所の間を往復している訳だ。
それを走って運ぶのが彼女に与えられた仕事だった。
休む間もなく、走っては運び、運んでは走る。
時給1000円。
「本当に大変で、こんな仕事なんかやってられない、と思った」と彼女は言った。
「わたしたちは『走り』って呼ばれるの。それに、上の人たちの言葉も乱暴で、恐くて仕方なかったよ」
生放送の放送現場は、戦場さながらである。
瞬発力と即決の世界だから、ゆっくり説明したり、丁寧な言葉を使う余裕もヒマもない。
スピードが命の世界だ。
言葉も動作も荒くなることもやむを得ない現場である。
デイリーの、その規模の大型ワイド番組だと、何十人ものスタッフが制作にかかわる。
テレビ局の社員はごく少人数で、ほとんどが複数のプロダクションから派遣されたスタッフたちの混成部隊である。
そこに飛び込んで来る日替わりの短期学生アルバイトが大切に扱ってもらえる土壌はないのに違いない。
「何人かのAD(アシスタントディレクター)さんと話したけれど、それでもバラエティー番組のADはその程度の生易しいものじゃないんだって。徹夜は続くし、一週間ほど家に帰れないことなんて珍しくないと言ってた。でも、やりがいは感じるとも言ってた」
「ところで、Aちゃん、君はどう思っているの」とボクは笑いながら尋ねる。
「うーん。あまりやりたくないかなあ。でも、面白そうだとも思うし……」
先日、制作プロダクションの組合であるATP(全日本テレビ番組製作社連盟)が主催する就職説明会があった。
秋葉原の会場に各プロダクションがブースを出して来年4月からの就職を希望する学生たちを勧誘する催しである。
およそ50社ほどの制作プロダクションが2日間に分けてブースを出した。
一日で500人ほどの学生たちが集まったと思われるが、年々集まる学生数は減っているようだ。
そして、人気があって学生たちが集中するのは、圧倒的に情報・バラエティー系のプロダクションのブースである。
ドキュメンタリーに興味を持つ学生はごくわずかだ。
しかし、情報・バラエティー系のプロダクションは応募する学生も多いが、その過酷さに辞めて行く者も多い、出入りの激しい世界と聞いている。
ボクたちドキュメンタリー系の会社は、それと比べるとずっと緩やかで、AD残酷物語はほとんどないと言っていい。
5月に入るとボクたちの会社でも面接試験が行われるが、決まって応募者が尋ねるのは、休暇は取れるか、徹夜は無いか、の2点である。
テレビの制作現場の過酷さの噂が学生たちの間で広く喧伝されている様子だ。
ここ10年ほどで働く人たちの感覚が大きく変化し、つくづく時代とは変わるものだと実感させられるが、以前には聞くことの無かった労働環境や労働条件への意識が間違いなく高くなっている。
ボクたちの会社でも、必ずしも日曜祭日に休めるとは限らないが、代休はとれるようになっているし、時として徹夜しなければならないこともあるが、その分休暇がとれる。
そして多くの学生が懸念するような、非人間的な労働環境ではないことは確かである。
ことに、4月から施行される働き方改革の法律に沿った労働の在り方には特に気を配っている。
世の中は動き、常に変化していく。
それに伴い、世間の常識も目まぐるしく変化する。
一旦決められた法律は、仮に悪法であったとしても順守しなければならないが、しかし、忘れてはならないことがある。
それは、世間の常識とは別の視点で、なぜ働くのかという観点からの自らへの問いかけである。
「人はパンのみにて生くるものに非ず」という聖書の言葉がある。
本来の意味からすると引用が適切であるかどうか知らないが、働いて糧を得ることは必須の大切な要素であるとしても、その仕事を通して何を求め、何を得ようとするのか、そして何を生み出すのかも同時に大切なことである。
それが自分の楽しみや喜びであろうと、世間や他人様の役に立つためであろうと何であろうと構わない。
ボクが就職希望者の採用に際しての基準にしていることは、まずその一点である。
給与や労働条件は大切だが、それを一番に考える応募者は絶対に採用しない。
ボクたちの仕事である番組制作にどこまで本気に取り組む構えを持っているかの見極めを重視する。
それがイコール、給与や労働条件を軽視するという事ではない。
別の次元の話である。
本当にモノを作りたいと思っている人材、コレを発信したいと願っている人材、あるいはまた、この仕事を通して人に喜んでもらったり楽しんでもらったり感動してもらったりして欲しいと願う人材を求める。
ボクたちの会社をひと口で表現すると、ゆったりとした番組の作り手たちの場だ。
ひとりひとりを労働のための駒としてではなく、それぞれの個性を重んじる自由な雰囲気の会社である。
そのことについては自信を持って断言できる。
ボクは自由を愛する。
中でも、もっとも大切にするのは言論の自由である。
しかし、自由であるということは、実は厳しい、大変だ、苦しいと同義語でもあることを知っておかなければならない。
自分が発信しない限り、また、自分が積極的に行動したり、責任を持って対処しない限り、身の置き場がなくなるということでもある。
いずれにしても世の中、楽な生き方は存在しないのである。
ボクたちはいま、どのような個性を持ったオモシロイ人材がわが社の扉を叩いてくれるのかを心待ちにしている。
「常識を 捨てて拾える 自由かな」

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彼女はテレビ局の仕事に興味を抱き、つい最近、あるテレビ局のデイリーのワイド生番組の短期アルバイトに応募した。
面接にあたった制作担当者は彼女を見て「この娘は走れそうだな」と面接に同席した同僚に話しかけた後、彼女に向かい「君、走れる?」と聞いた。
「はい、走れます!」と元気よく答えると「それじゃ、走ってもらおうか」と彼女のアルバイト採用が決まった。
それから4日間、朝8時から午後2時過ぎまでの6時間余、彼女は走り続けることになる。
情報系のワイド生番組は、放送直前のギリギリまで取材テープの編集や録音作業を行うといった、滑り込みの作業の連続である。
取材し終えた未編集の素材テープをテレビ局とは別の離れた建物にある編集室や録音所に運び込み、仕上がったテープを再びテレビ局に急いで運ばなければならない。
時間との競争が、その番組が放送されている間中次から次へと休みなく続く。
何十本という大量のテープがテレビ局と編集室や録音所の間を往復している訳だ。
それを走って運ぶのが彼女に与えられた仕事だった。
休む間もなく、走っては運び、運んでは走る。
時給1000円。
「本当に大変で、こんな仕事なんかやってられない、と思った」と彼女は言った。
「わたしたちは『走り』って呼ばれるの。それに、上の人たちの言葉も乱暴で、恐くて仕方なかったよ」
生放送の放送現場は、戦場さながらである。
瞬発力と即決の世界だから、ゆっくり説明したり、丁寧な言葉を使う余裕もヒマもない。
スピードが命の世界だ。
言葉も動作も荒くなることもやむを得ない現場である。
デイリーの、その規模の大型ワイド番組だと、何十人ものスタッフが制作にかかわる。
テレビ局の社員はごく少人数で、ほとんどが複数のプロダクションから派遣されたスタッフたちの混成部隊である。
そこに飛び込んで来る日替わりの短期学生アルバイトが大切に扱ってもらえる土壌はないのに違いない。
「何人かのAD(アシスタントディレクター)さんと話したけれど、それでもバラエティー番組のADはその程度の生易しいものじゃないんだって。徹夜は続くし、一週間ほど家に帰れないことなんて珍しくないと言ってた。でも、やりがいは感じるとも言ってた」
「ところで、Aちゃん、君はどう思っているの」とボクは笑いながら尋ねる。
「うーん。あまりやりたくないかなあ。でも、面白そうだとも思うし……」
先日、制作プロダクションの組合であるATP(全日本テレビ番組製作社連盟)が主催する就職説明会があった。
秋葉原の会場に各プロダクションがブースを出して来年4月からの就職を希望する学生たちを勧誘する催しである。
およそ50社ほどの制作プロダクションが2日間に分けてブースを出した。
一日で500人ほどの学生たちが集まったと思われるが、年々集まる学生数は減っているようだ。
そして、人気があって学生たちが集中するのは、圧倒的に情報・バラエティー系のプロダクションのブースである。
ドキュメンタリーに興味を持つ学生はごくわずかだ。
しかし、情報・バラエティー系のプロダクションは応募する学生も多いが、その過酷さに辞めて行く者も多い、出入りの激しい世界と聞いている。
ボクたちドキュメンタリー系の会社は、それと比べるとずっと緩やかで、AD残酷物語はほとんどないと言っていい。
5月に入るとボクたちの会社でも面接試験が行われるが、決まって応募者が尋ねるのは、休暇は取れるか、徹夜は無いか、の2点である。
テレビの制作現場の過酷さの噂が学生たちの間で広く喧伝されている様子だ。
ここ10年ほどで働く人たちの感覚が大きく変化し、つくづく時代とは変わるものだと実感させられるが、以前には聞くことの無かった労働環境や労働条件への意識が間違いなく高くなっている。
ボクたちの会社でも、必ずしも日曜祭日に休めるとは限らないが、代休はとれるようになっているし、時として徹夜しなければならないこともあるが、その分休暇がとれる。
そして多くの学生が懸念するような、非人間的な労働環境ではないことは確かである。
ことに、4月から施行される働き方改革の法律に沿った労働の在り方には特に気を配っている。
世の中は動き、常に変化していく。
それに伴い、世間の常識も目まぐるしく変化する。
一旦決められた法律は、仮に悪法であったとしても順守しなければならないが、しかし、忘れてはならないことがある。
それは、世間の常識とは別の視点で、なぜ働くのかという観点からの自らへの問いかけである。
「人はパンのみにて生くるものに非ず」という聖書の言葉がある。
本来の意味からすると引用が適切であるかどうか知らないが、働いて糧を得ることは必須の大切な要素であるとしても、その仕事を通して何を求め、何を得ようとするのか、そして何を生み出すのかも同時に大切なことである。
それが自分の楽しみや喜びであろうと、世間や他人様の役に立つためであろうと何であろうと構わない。
ボクが就職希望者の採用に際しての基準にしていることは、まずその一点である。
給与や労働条件は大切だが、それを一番に考える応募者は絶対に採用しない。
ボクたちの仕事である番組制作にどこまで本気に取り組む構えを持っているかの見極めを重視する。
それがイコール、給与や労働条件を軽視するという事ではない。
別の次元の話である。
本当にモノを作りたいと思っている人材、コレを発信したいと願っている人材、あるいはまた、この仕事を通して人に喜んでもらったり楽しんでもらったり感動してもらったりして欲しいと願う人材を求める。
ボクたちの会社をひと口で表現すると、ゆったりとした番組の作り手たちの場だ。
ひとりひとりを労働のための駒としてではなく、それぞれの個性を重んじる自由な雰囲気の会社である。
そのことについては自信を持って断言できる。
ボクは自由を愛する。
中でも、もっとも大切にするのは言論の自由である。
しかし、自由であるということは、実は厳しい、大変だ、苦しいと同義語でもあることを知っておかなければならない。
自分が発信しない限り、また、自分が積極的に行動したり、責任を持って対処しない限り、身の置き場がなくなるということでもある。
いずれにしても世の中、楽な生き方は存在しないのである。
ボクたちはいま、どのような個性を持ったオモシロイ人材がわが社の扉を叩いてくれるのかを心待ちにしている。
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