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早坂暁さん逝く

年の瀬も押し詰まった16日土曜日の夕刻、自宅のベランダでのんびりとタバコを吸っていると「先生が亡くなった」との電話が入った。

早坂暁さんの奥さんからだった。
「外で倒れて病院に運ばれたのだけど駄目でした。不審死ということで、いま警察署にいます。また連絡します」と電話は切れた。

とうとうこの日が来てしまったか、というのが正直な気持ちだった。
当然、大いに驚いたのだが、予期しないことではなかった。
丁度2週間ほど前に「腹部に6センチの大動脈瘤があり、いつ破裂するか分からない危険な状態だが、年齢が年齢だけに手術するのは難しい」と聞かされていたからでもある。

早坂暁さんのことは、このブログでも何度となく書かせてもらったが、ボクのもっとも敬愛する著名な脚本家であり作家である。
今更、早坂さんについての説明は不要だとは思うが、才能に溢れた天才だった。
公私ともにお世話になった。

今年の8月で88歳の米寿を迎えられたが、つい最近も心疾患で倒れ、死線を潜り抜けて奇跡的な生還を果たしたばかりだった。
その生命力に舌を巻いていたのだったが、さすがの先生も寿命には逆らうことはできなかった。

つい1ヶ月ほど前に奥さんと二人で突然ふらりと会社に訪ねて来られて、番組企画の話を元気よく語っておられた。
来週にでも先生のお好きな中華料理を食べに行きましょう、と約束を交わしながら、会社の外まで見送った。
それじゃまたね、と先生は暗くなり始めた街路をゆっくりとではあるが確かな足取りで奥さんに付き添われて帰って行かれた。
その後ろ姿が今の瞬間も目に浮かぶが、それが最後の別れとなった。

この寒さの所為だろうか、葬祭場が混みあっていてすぐには葬儀を行えず、遺体はしばらく家に安置されている。
先生愛用の鳥打帽をかぶり棺に収まっている先生の顔は実に穏やかで、今にも「やあ!」とニッコリといつものように声が掛かりそうな錯覚に陥りそうになった。

「死因は腹部の動脈瘤の破裂で、即死だったようです」と奥さんは言った。
「すき焼きが食べたいというので、そのお店に行く途中の出来事でした。これを見て下さい」と2枚の写真のコピーを広げた。
それはお店のすぐ近くの防犯カメラの映像を複写したものだった。
エスカレーターを降りて来る先生夫婦の姿が映った1枚と、もう1枚にはエスカレーターを降りた後、自分の腰の後ろに両手を回して何かを興味深そうに眺めている先生に奥さんが何事かを話しかけている姿が映っている。
先生のいつものスタイルだ。

「大きなクリスマスツリーが飾ってあってそれを見ている所です。警察署の人に無理を言って貰ったものです。この直後に先生は急にバタンと倒れたの」
倒れる瞬間以降の映像の写真は貰えなかったのだと奥さんは言った。

「医者によると本当に即死だったようで、苦しみはまったく無かっただろうということでした。本人もいつ死んだのか分からなかったんじゃないかしら」
せめて苦しまなくて良かったですね、との言葉をボクは呑みこんだ。
その後、病院に担ぎ込まれてからの話を詳しく聞いた。

「これが先生の絶筆です」と4枚の原稿用紙を奥さんはボクに見せた。
誰にも書けない、こなれた達者な文章がそこにあった。
純粋な、子供のように無邪気で生き生きとした文章だった。
さすが、先生、最後に良い文章を残された。

数日前に、遺言書も作っていた。
ボクの親しい弁護士に依頼したものだった。
そして、NHKでは、早坂さんの企画が実現することも既に決まっているとの話も聞いた。
まずは先生、やるべきことはやっている。
「先生も傍で私たちの話を聞いて喜んでくれてはるやろ」と奥さんは言った。

奥さんには話したいことが山ほどあり、ボクにも語りつくせない多くの先生との思い出が山ほどある。
いくら時間があっても話が尽きることはなかった。

突如、会社からの急用の知らせが入り、我に返る。
「先生、それじゃ今日はひとまず失礼しますね。告別式で改めてお会いしますね」

「もしよろしかったら、これを」と渡された白黒の写真の中で先生がいい顔をして笑っていた。
大切な人たちが、次々に去っていく。
これで何人の大事な人たちとの別れになるのだろう。

一緒にいた妻も真っ赤な眼をしている。
妻も先生には可愛がって頂いた。
「この人と一緒になってから、わたしも親しくなった人たちとの別れを経験しています」と妻は帰り際に奥さんに言った。

奥さんは、マンションのエレベーターまで見送ってくれた。
エレベーターのドアーが閉まる時に目にした奥さんは、ふくよかな女性の筈が二回りも三回りも小さく見えた。

      「達者でな 静かな笑顔で 巨星逝く」



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