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会社訪問の女子大生

先日、就職活動でひとりの有名大学の女子学生が会社を訪ねて来た。
ボクたちの会社への就活のための学生の会社訪問は珍しい。

真面目で清らな感じのその女子学生は、映像の制作会社に興味があるのだが、これまで、そのための勉強はしていなくて、テレビ番組の制作会社とはどういうものかについては全く知らないので、色々と教えてもらいたい、とのことだった。

ボクは企画の提案に始まり、どんな仕組みで番組が制作され視聴者に届けられるのか、また会社の概要等々、時間を掛けて説明した。

克明にメモをとっていた女子学生は「ちょっとお聞きしてもよろしいでしょうか」と不安そうな眼を向けた。
「休みはとれるのでしょうか。徹夜の仕事が続くのでしようか」

いつの頃からかは定かには覚えていないが、テレビ番組の制作現場で働くアシスタントディレクター、いわゆるADは、一時流行った3Kの代表選手となった。
ご存知のように3Kとは、きつい、汚い、危険の頭文字をとったものだが、近頃では新3K、きつい、給料が安い、帰れない、などの新解釈もあるようだ。

女子学生は、この業界の知人からの噂も聞いており、不安を感じているようだった。
「正直、楽な仕事ではないことは確かですよ」とボクは応えた。

お役所のように土日祭日だからと云って必ず休めるとは限らない。
でも、たいていはその代わりに別の日に休める。
放送日が迫り、納品が追い込みに入れば徹夜をしなければならないこともある。

そういった事情は担当する番組によっても異なるし、また番組を発注しているテレビ局のプロデューサーの仕事の仕方によっても左右される。
しかし、現状でのボクたちの労働環境は世間の常識の範囲にあると思っている。

ボクたちの会社は、基本的には自主管理に重きを置いているので、各番組の担当プロデューサーやディレクターが仕事時間等々を決める。

だから、経理や総務などの管理部門は10時から夕方6時と勤務時間は決めているが、制作現場には、会社の決めた出社時間も退社時間もない。
自主管理である。
現場の自由裁量で休みはとれる。

「あなたの友人はバラエティーか情報番組などの仕事をしているのじゃない?」と聞くと「バラエティーをやってるみたいです」と女子学生は答えた。
「その人たちは、ボクたちドキュメンタリー番組の仕事よりも恐らく時間的には大変だと思いますよ」

バラエティー番組はなんと言ってもテレビの花形である。
それだけに厳しい視聴率競争にも晒され、ひとつの番組に関わっている人数も多く、アシスタントの雑用も半端ではないだろう。
情報番組も同様である。

それに比べるとドキュメンタリー番組は比較的仕事の形は穏やかだ。
視聴率にもそれほどは左右されない。
昔からドキュメンタリー番組がテレビの主役になったことなどない脇役的な存在だからである。
ただし、テレビの脇役であることと、ボクたちが誇りを持って番組を制作していることとは別の問題である。

それでも、日曜祭日に暦通りの休みが取れないことを理由に入社一年以内に辞めて行った女子社員もいた。
一流大学を卒業した才能豊かな人材だったが、自分の自由になる時間が足りないらしかった。
トータルとしては他の誰よりも休日を確保していたのだったが、もっと休みが欲しかったようだ。
そういう価値観を持つ人たちは、この業界に限らず組織に属することは諦めるしかない。

ボクが雑談を含めて色々と説明しているうちに、初めのうちは不安そうだった女子学生の眼が次第に輝きを増してくる様子が見て取れた。

労働条件の問題については以前に比して関心度の高まりを実感する。
事実、大手代理店電通の新入女子社員が自殺する事件も起きている。
1ヶ月の残業が105時間にのぼり、三田労働基準監督署は、心理的負荷による精神障害で過労自殺に至ったと結論づけ労災と認定している。

正直に言えば、ボクがテレビ局に勤務していた頃は、月に100時間位の残業など日常茶飯事で、特別に取り上げなければならないほどの残業量ではなかった。

この事件をしっかりと調べもせずに論評することは、亡くなられた方には申し訳ないが、彼女の自殺は単純に残業量だけの問題ではなく、彼女の上司の仕事のさせ方を含めた労働環境に問題があったのではないかと感じている。
実りある形での仕事ならば、その程度の残業で精神を病むことはない筈だ。

恐らく、納得の行かない、あるいは新入社員にとっては能力を超えた無理な仕事を課せられていたのではないかと推測する。
パワハラとも言えるとんでもない上司や無能な上司はどこにでも山ほど存在する。

本当は、残業時間の制限よりも、そういった上司の摘発排除こそが必要なのだろう。
しかし、結果的には残業量の制限という、目に見える法律を作って問題の本質をすり替えて安易な形での決着をつけようとしている。
馬鹿馬鹿しい限りだ。
問題は残業量などではなく、職場での孤立が一番の問題なのだろうと思う。

それにしても、時代が変われば常識もこんなにも変わるものかと驚く。
ちっとも自慢にならないし、ヒンシュクを買うことを覚悟の上で告白すると、若い頃ボクなどは、仕事で親の死に目には会えないのは当然だと思っていたし、妻のお産なども同様に思っていた。
ましてやペットが死んだからと忌引の休みを取るなど、とてもボクの常識の中にはない。

これらは、自分にとって何を最も大切にするかとの価値観の問題だが、個人を越えて社会がどのような価値観を持つかの問題でもある。

親を大切にし、妻をいたわり、子どもに思いを寄せるのが、まともな人間の生き方だろう、との天からの声が聞こえてくる。
しかし、やっぱりどこかで仕事の方を大事に思う自分が存在している。

つまり、社会の共通の価値観もどんどん変化するので、昔の価値観は時代遅れとなって取り残されてしまう。
こういうのを老化現象と称するのだろうが、その意味に於いては、ボクは間違いなく老化現象の真っただ中にある。
時代が変わったなあ、と思ってしまう訳だ。

「最後にお尋ねしたいのですが、何かこだわっておられることはありますか」と女子学生。
「地べたから世の中を見ることかな」とボク。

「ホクたちテレビ番組の制作者は、そのひとりひとりがジャーナリストでなければならないと思っています。ジャーナリストの必要条件は、反権力と野次馬精神です。そして、その視線は常に地べたからでないといけないとボクは思っています」

      「地べたから 稀にはきれいな 風景も」


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