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定年について

ボクたちの会社には定年制がない。

70歳でも80歳でも、本人に働く意志と能力さえあれば、何歳になっても働くことが出来る。
この原則は、役職にも、正社員であるか契約社員であるかにも関係なく該当する。

現在、70余名の常勤スタッフがいるが、70歳以上の常勤者はボクを含めて3名、週に1~2日出勤する非常勤のスタッフが3名いる。
会社設立26年のまだ若い会社だが、毎年、必ず数名の新卒者を採用しているので、スタッフの平均年齢は、33~4歳だろうか。
特別に、平均年齢の高い会社ではない。

2020年の東京オリンピックを迎える頃には、団塊の世代が70歳を迎えることになる。
日本社会の老齢化がいよいよ進み、社会保険や医療保険などの制度の矛盾がいよいよ露わになると同時に、今の税制のままでは、日本経済を賄えなくなることは必定である。

60歳や65歳で定年という、これまでの定年制の見直しも行われる筈である。
ボクの周囲にも、定年で已むなく職を辞さなければならないが、まだまだ働く意志を持っている人たちが多数いる。

しかし、特別のケースを除いて、新たに活躍できる職場は少なく、そのほとんどが清掃業や夜警などに限られているのが現実であるとも聞く。

ボクは別に大所高所に立って、日本社会のことを心配してのことではないけれど、もともと、定年制などというのは馬鹿馬鹿しい制度だとずっと思ってきた。

それぞれの人たちには、それぞれの個性や能力がある筈で、それを単純に一律年齢だけで判断し、その人の人生を決定したり、切り捨てたりすることは乱暴にすぎると思っているからである。
これは、大企業の一方的な差別的行為であると思うし、人材の使い捨ての思想に他ならないと考えるからである。

そんな観点からボクは定年制には否定的で、ボクたちの会社には定年は無い訳である。
可能な限り働き、社会に役立てば良いし、すこしでも税金を納めれば、経済的な面での貢献もできる。

バラエティーなど圧倒的な若者たちを視聴対象とする番組では、その制作者の年齢が40歳を過ぎると、時代感覚に追いつかなくなるとの話も聞くが、幸いなことに、ボクたちはドキュメンタリーというジャンルの番組を制作している。
時代に対する鋭い感覚は当然必要とはされるが、ドキュメンタリー制作者は、その年齢の幅は比較的広い。

若い人たちには若い人たちの視点があり、熟年者にはその年齢に見合った視点がある。
その年齢に合った番組制作が可能であるし、もっと云えば、その年齢でなければ表現できない世界もある。

人生を知る者だけが表現できる深い世界を描きだすことも可能である。
制作意欲を失わない限り、年齢の壁は突破できるとボクは信じている。
身体の動きが鈍くなれば、それでも表現できるテーマに取り組み、手法や表現方法を編み出せばよい。

しかし、それとは別に、現実には、大きな壁がある。
それは、ボクたちは、自主映画ではなく、テレビ局の仕事をしているという事実である。

テレビ局には厳然として定年制があり、ボクたちが仕事をするのは40歳代、50歳代のプロデューサー相手であるということだ。
それら若いプロデューサーたちは、若い制作者たちとの仕事を希望するケースが多い。
頑固な老人相手との仕事を嫌うのは当然のことである。

それを乗り越えるためには、たとえ、歳はとってはいても、若い者に劣らぬ柔軟な思考と、彼等若いプロデューサーたちを魅了できる才能や魅力を常に備えていなければならないのだ。
これは、言うは易く行うは難しの至難の業である。

老害という言葉を少しでも感じさせた時、ボクたちの使命は終わる。
高齢の制作者は、制作への意欲と共に、自らを知り、自らを律することが条件となる。

定年は、制度が決定するものではなくて、自らが決めるものであるとボクは信じている。

   「歳をとり 己を知るも 才のうち」


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