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壊れた電卓

つい先日、愛用の電卓が壊れた。
縦20センチ、横15センチほど、厚さも2センチ以上のいかにも頑丈そうな電卓である。

会社設立以来、25年間以上、ずっと使い続けてきたボクのいわば戦友であった。
ところが、突然、10万の位の数字の液晶の表示が半分欠けて見えなくなってしまった。

他の部分は何ともないのに、ただその箇所だけが壊れているのはいかにも切ない。
ごまかして使おうとしたのだが、やはり数字によっては読み取れない。
なにしろ、計算機だから、肝心の数字が正確に読み取ることができないのは致命傷である。
泣く泣くあきらめて廃棄することにした。

変哲もないただの計算機だが、その姿形への愛着と同時に、永年慣れ親しんだ指の感触の残像のようなものがあり、スタッフが用意してくれた新しい電卓に慣れるのに少しの時間を要しそうである。

会社のすぐ近くに、ボクがしばしば利用しているパンジーという名の喫茶店がある。
午前中はトーストとゆで卵にコーヒーで350円のモーニングセットという定番メニューがあり、チョコレートパフェやフルーツパフェ、それにミルクセーキなどという昔懐かしい飲み物もある。
今どきでは珍しくなった古いタイプの喫茶店である。

すでに亡くなられたが、つい2年ほど前まで、しっかり者の婆さまがその喫茶店のレジを守っておられた。
初めのうちは強面の頑固そうな老人に見えたが、しばらく通ううちにすっかりお馴染さんになり、とても親しくなった。

コーヒーを飲み終えて帰る時など、「もうお帰りですか。もっとゆっくりして行って下さいよ」などと引きとめられたりしたものである。

彼女は赤坂のこの場所で生まれ育ち、ずっとここで暮らしてきたのだと云っていた。

「わたしがまだ娘の頃でしたがね」とその婆さまは、その時降っていた雪をお店のドアー越しに見ながらボクに話したことがある。
喫茶店パンジーは国会議事堂に近い、赤坂山王下の交差点のすぐ脇にある。
「降りしきる雪の中を大勢の兵隊さんが血相を変えて山王下を通り過ぎて行きましたよ。それが2・26事件だったんですね。」

2・26事件は昭和11年に起きたクーデター未遂事件である。
ボクたちが歴史で習った昔の出来事の目撃談をまるで近所で起きた出来事のように語っているのが新鮮で、印象に残っている。

その婆さまが亡くなられたあとを娘さんが跡を継いでいる。
どうやら代々、女系の家系のようで、喫茶店パンジーのある7階建てのビルは持ちビルで、今は婆さまの、ボクよりは少し若い娘が婿養子を迎えて相続しているらしい。

その女主もなかなか口達者な人で、彼女によると、喫茶店を開く前は、長い間、食料品店をやっていたとのことである。
実は、この喫茶店パンジーのレジで使っているレジスターは戦後間もなく始めた食料品店時代に使っていたものを未だに使い続けているのだと云う。

「もう60年以上も使い続けていますが、ちっとも故障しない。愛着があって捨てることが出来ないのですよ」と女主は笑っている。
云われてみると、茶色の大きなレジスターがこのお店の本当の主役のようにも見えてくる。

ボクが20数年使っていた電卓もよく頑張ってくれたけれど、ITなどを全く使っていない、恐らくネジやバネだけで作られている技術の力強さと生命力は凄いと改めて思う。

何十年もの永きに渡って、昭和、平成と変わりゆく世の中をずっと見続けて来た歴史の目撃者は、今日もまた黙々と働き続けている。

      「人もまた お役御免の 使い捨て」


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