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別れの電話

昔、「お別れ公衆電話」という松山恵子の有名な演歌があった。
恋に破れた女のせつない未練の唄だが、ボクは先日、実際に、別れの電話を受けた。

それは、これまでの人生で初めてのシリアスな体験だった。

電話の主は井上洋二さんだった。
井上洋二さんは早稲田大学卒業後、映画会社日活のプロデューサーを経て、出版社を設立、自社ビルを所有するまでに成功を収められた方である。
今年82歳になられる。

井上さんとは、予備校時代以来のボクの友人であるフランス文学者の奥本大三郎を通じて10数年前に知り合った。
奥本大三郎はフランスの昆虫学者ファーブル研究の第一人者でファーブル昆虫記の日本語の全訳を出版してもいる。

井上さんや奥本とは、しばしば四谷三丁目のスナックで飲み明かしたものである。
井上さんは、お酒はほとんど召しあがらなかったが、酒場の雰囲気を楽しまれた。
石原裕次郎がお好きで「粋な別れ」をよく歌われた。

わが社の忘年会やお花見の常連で、二次会にもよく付き合っていただいた。

その井上さんから突然の電話があった。

「お久しぶりです。お元気ですか?」とのボクの挨拶に「いやあ、そうでもないんですよ」との返事が返って来た。

井上さんの話によると、肺がんを患っていることが分かったのだが、手術が出来ない状態らしい。
高齢なので抗がん剤を含めた治療も出来ないのだという。

治療ができないとなると、どこの病院も受け入れてくれない。
「がん難民ですよ」と井上さんは云った。

幸い、井上さんは知人の紹介で山梨県の病院に入ることが出来たらしい。
「正月を迎えられるかどうか、という状態です」と云う。
「いつどういうことになるか全く分からないのです。お会いしたいと思いながら、とうとう、果たせませんでした。失礼だとは思いますが、これは、お別れの電話です」

電話ではしばしば話していたが、今年のお花見にはお見えになれなかった。
最後にお会いしてから、すでに一年は経つかも知れなかった。

「本当にお世話になりました。可愛がっていただきありがとうございました」
ボクは言葉に詰まって、それだけ云った。

「また、お会いしましょうや。四谷三丁目でね。あの頃は楽しかった。夢の中でね」と井上さんは云った。

   「人生は 粋な別れが 難しく」


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