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忘れられない風景 ~怪人・千代丸健二さんとの別れ④~

3・11の東北大震災から数日後、千代丸健二さんから会いたいとの電話が入った。

練馬のマンションの薄暗い部屋のベッドにうずくまるように身体を横たえる陰があった。
ベッドの脇に置かれた食べかけのリンゴがひとつ。
その甘酸っぱい香りが荒涼とした部屋にひろがっていた。

千代丸さんと会うのは数日振りだったが、見る影もないほどの急な衰えようだった。

数年前に奥さんとも別れての一人暮らしで、時折、福祉の介護人が訪ねて来ているだけだった。

息も絶え絶えの話の途中、シビンをやっと取り出し、「小田さんには何でも見てもらいます」と、ほとんど出ない尿を出された。

「ビールを……」と彼は云った。
急ぎ、近くのコンビニで買ってきたノンアルコールのビールで杯を交わした。

「お世話になりました。思い残すことはない」と彼はボクの目をじっと見た。
そして「これでいい。これでいい」と何度も自分に言い聞かせるようにつぶやかれた。
死を受け入れるための長い葛藤の数ヶ月だったろう。
それは諦めという言葉では到底表現できない深いものだ。

帰り際、「ありがとう。ありがとう」といつまでも繰り返された。

暗がりの中で、名残惜しそうに見送る千代丸健二さんの遠くの姿に、ボクは声も失い深々と頭を下げてマンションの扉を閉めた。
自分でも身体が硬直していることが分かった。

身体の芯から冷えるような寒い夜だった。


   「さらば友よ いつかあの世で 会う日まで」


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