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異文化との出会い

とても私的な話で恐縮だが、中国生まれの朝鮮族である妻は5人姉妹の次女である。

長女である姉夫婦は、かつて日本に渡って来て何年間か苦労したことがあったようだが、今では中国の天津で大きな事業を営み成功を収め、豊かな暮らしをしている。

妻のすぐ下の妹は中国国籍のまま韓国のソウルに居を構えている。
4番目は日本の国立大学を出て現在は赤坂でクラブを経営し、末っ子は、夫の仕事の関係で中国と韓国を行き来する生活をしている。
娘をアメリカのボストンカレッジに留学させている。

ボクのように日本以外の国で住んだことの無い者にとっては、自由に国境を跨いで活躍している姿を見ていると、ずいぶん精力的で逞しく勇気ある一族に映る。

赤阪でクラブをやっている義妹は家も近いので、休日には、大学生の娘を連れてしばしばボクたちのマンションに遊びに来る。
先日、末っ子の義妹が、長期滞在ビザを取得して来日し、義妹やその娘たちと共に遊びに来て賑やかに食事した。

それぞれ、中国語、韓国語、日本語、それに英語などを操るが、母国語の中国語はほとんど使われず、主に韓国語と日本語が飛び交う会話となる。
ボクも韓国語にチャレンジしているが、とても会話に追いつくことはできない。
不思議な空間だが、まったく違和感は無い。

食卓には日本食や韓国食が並ぶ。
みんなそれぞれ、思い思いの自分の好みの料理を食べている。

「面白いわね。食べ物の好みがはっきりと分かれているわね」と海ちゃんが言った。
海ちゃんは末っ子のニックネームである。
「オダさんはやっぱり日本人ね。私たちはキムチ文化ね」

ボクたちと同居している義理の娘は子供の頃に日本に来てすでに20数年経つが、やはり食のルーツは韓国食にあるようだ。
クラブを経営している京ちゃんの娘は日本人とのハーフだが、日本で生まれ育ったので、母親はキムチ派だが、本人は完璧な日本食派である。
幼い頃の食習慣がその人のその後の食事の好みの形を決めるのかもしれない。

「だから、結婚相手には食事の合う人を選んだ方が良いと言われたことがあるよ」と末っ子の海ちゃん。
「確かに、食生活は重要で、そういう要素もあるとは思うけれど、夫婦の相性は食事だけで決まるという訳でもないと思うけれどね」
とボクは軽い調子で反論した。

異文化を初めとして異質なモノとの接触や共存は、お互いにそれぞれの違いを認識し、認め合わなければならないという面倒な一面を持つことは確かだ。
しかし、それさえ出来れば、異文化との出会いは刺激的で興味深いし、面白く楽しいものだ。

「今度、お花見に行こうよ」とボクは提案した。
「お花見って何?」と海ちゃんは怪訝な顔をして聞いた。
それこそお花見などは海ちゃんにとっては異文化の典型に違いない筈だ。

「桜を観に行くのよ。満開の桜も見事だけど、桜の花が散る時もホントに素敵よ。桜がまるで吹雪のように舞うの。わたしたちは毎年お花見に必ず出かけているのよ。」
と妻は、ボクに代わって説明した。

そう言う妻だが、知り合った当初は桜などに全く興味を示さなかった。
それから約10年、今では桜の季節になると、お花見に行こうね、などと口にするようになっている。

4番目の義妹はと見ると、日本に住み始めてすでに30年近くになるが、お花見の話などには興味は無い様子で、花より団子とばかりにキムチを頬張っている。

ボクたちの会社でも設立以来、毎年欠かさずお花見を続けてきた。
会社の近くの公園にシートを敷いて弁当とお酒などを用意して夕刻から始める。
暗くなり始めると馴染みの撮影会社のスタッフの人たちがライトアップしてくれるので、宴会にも格好がつく。
毎年、およそ250人ほどの方々が参加して下さっている。
会社の大切な伝統行事のひとつだ。
今年会社設立30周年を迎えたが、お花見30周年でもある。

ボク自身もなぜ、これほどまでに、桜に魅せられるのか、その理由は分からない。
また、これまで、その理由を考えたこともない。

多くの人たちが言うように、パッと咲き、パッと散るその潔さに日本人の生き方を重ね合わせるからなのだろうか。
美しく短い命に「もののあはれ」を見るからなのだろうか。
それとも、生命を甦えさせる春を迎えた喜びを桜の花に託して多くの人びとと共に祝い合うのだろうか。

時には、花冷えでブルブル震えながらも車座になって酒を酌み交わす日本人たちの図は異国の人たちには到底理解できないことだろうと思う。
あるいは、近頃では、日本人の中にも不思議に思う人たちも少なからずいることだろうとも思う。

それにしても、梅や桃やつつじや藤など数々ある花の中で、どうして桜に特別の思いを寄せて、酒を酌み交わすのだろう。

今年は例年よりも桜の開花が早く「休眠打破」という、初めての言葉も耳にした。
桜は夏に翌春咲く花芽をつけ、いったん休眠に入る。
その花芽が冬になり一定期間寒気にさらされて休眠から覚める。
この目覚めを「休眠打破」と称するらしい。
気温上昇と共に目覚めた花芽は成長して開花に至る仕組みだ。

しかし、温暖化が進み寒気が緩み過ぎると、この「休眠打破」が無くなり、春先の気温が高くても開花が遅れる現象が起きる。
将来、日本では一斉に開花する満開が無くなるだろうとの予測だ。

地球は現在、氷河期に向かって進んでいる。
つまり、気象学的には、地球は寒冷期で次第に冷えて行く。
しかし、人間の過剰なエネルギー消費で、逆に温暖化現象が起きている。
マクロで見れば、人為的な温暖化などは、ほんの一時的現象にしか過ぎない。

核戦争で人類が滅びることは無くても、何万年だか何十万年後だか定かには忘れたが、生物学的に人類は滅びることは科学上の常識だ。
やがて、地球も燃え尽き、死の星となる。
もっと先には、ボクたちの概念にある宇宙そのものが無になるであろうことも既に類推されている。

そんな気の遠くなる未来の事は、限りある短い人生を生きているボクたちにとっては、事実上は無いに等しいどうでも良いことではある。
しかし、そういった虚しくなるような事実はボクたちの潜在意識の中にしっかりと存在している。

そんな宇宙的な視野に立てば、地球などは塵の一粒だし、人間などもその地球に生きる何百万種類だかのひとつの種にしか過ぎない訳だ。
だから、今後も含めて何十万年かの人類の生存の軌跡は、悠久の時間の中では瞬きにも似た一瞬の出来事でしかない。

普段は意識しなくとも、ボクたちは、そういった人間を含めたあらゆる存在の宿命を心の奥深くに収めて毎日をあくせくと過ごしている。
勝った負けた、得をした損をした、やれ温暖化だ、休眠打破だ、などと大騒ぎしながら、そして一喜一憂しながら日常を懸命に生きている。

宇宙的には何の意味も持たない人間の日常だが、ボクたち今を生きる者たちにとっては、それはとても価値のある日常なのである。

線香花火に人の一生の形を見るがゆえに、人びとは線香花火に思わず見入ってしまう。
同じように、ボクたちは桜の花に、人の一生だけではなく、普段は潜在意識下に密かに眠っている宇宙に存在するすべてのものの宿命を如実に見せられ、「休眠打破」ではないが、桜の咲き誇る姿や一斉に舞い散る凄絶な美しさに狂わんばかりに心を揺さぶられ、改めて宇宙の真実に覚醒するのではなかろうか。

それを苦と見るか、楽と見るか、あるいはまた空と見るかは人それぞれだ。
いずれにしても、非力な人間という存在には解決できない宿命の前に、人は皆で打ち揃って酒を飲むしかなくなるのではないか。

先日、約束通り仕事帰りに、妻や義妹たちと連れだって、夜桜見物に出かけた。
文京区にある有名な花見スポットはライトアップされていて、車座で楽しむ大勢の花見客で賑わっていた。

妻たち三姉妹は興奮した様子で全員が突然、スマホカメラマンに変身し、撮った写真をお互いに見せ合ったり、遠く故郷の姉妹や友人たちにラインで送信したり、大はしゃぎしている。
何千キロも離れ住む人たちから即刻に返信が届いては、それを見せ合いまた喜び合っている。

義妹たちが、美しい桜の群れに心を揺さぶられていることは確かなようだった。
そして彼女たちが異文化との触れ合いの入り口に立ったことだけは間違いなかった。

「連れてきて良かったね」と言うボクに妻は満足そうに頷いた。
満開の花の間からひっそりと輝きを放つ半月が見えた。

       「あと何度 同じセリフの 花見かな」

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母親ディレクターたちの職場復帰

昨年ボクたちの会社はベビーラッシュに沸いた。

現役で働いていた女性ディレクター3人が出産し、男性社員に二人目の子どもが誕生した。
もうひとり、計画出産を目指して、わが社を辞めて、仕事量を減らしながらわが社の仕事をしてくれていた女性ディレクターもつい最近出産した。

少子化が深刻な問題となっている昨今、身近で出産が続くことは目出度いことではある。
しかし、一方で、会社の立場で考えると、女性スタッフの出産によって有能な働き手をある意味失うことになるのは正直痛手でもある。

長い眼で見ると、子供が高校生くらいの年齢にまで成長すれば、親の手は離れるので、出産から15~6年の期間を過ぎれば、また元の通りに現場復帰できる訳だが、それまでの間は大なり小なりの制限勤務となるのでディレクターとして他のスタッフと同じように番組制作をすることは現実的には難しい。

特に、幼い赤子を抱えての身では、一週間とか二週間もの長い期間は勿論のこと一晩だって、取材で家を空ける訳にはいかないし、制限の中での仕事しか出来ないという意味では、他のディレクターと同じ形での働きを期待できないのが実情だ。

この4月から、0歳児を抱えるそんな母親ディレクターたち2人が産休を終えて、職場に復帰することになった。

これまで、経理やデスクなどを担当している女性スタッフたちの制限勤務については十二分過ぎるほどの体験を積んできているので、その程合いは理解できているが、制作現場での復帰はこれが初めてのこととなる。

そういえば、かつて経理やデスクなど業務部に所属する4人の女性のうち3名がやはり同じ状況にあった時、会社の中に保育園もどきの設備を作り、保母さん代わりのおばさんを雇って面倒を見て貰ってはどうかと提案したことがあったが、当の母親たちに見事に却下されたことがある。

保育園に預けっ放しにするよりも、職住接近で、いつでも好きな時に子供の顔も見られるし、授乳だってできるし、ボクは今でも、悪い考えだとは思えないのだが、母親たちにとっては安心して子供を託せる、しっかりした保育園でなければ心配らしかった。

もう少しうがった見方をするならば、それほどに、子育ては大変で、働いている間位は、子供の世話から解放されたいとの願いもあるのかもしれなかった。
ちなみに、その女性たちは全員、子供を育てながら現在も元気に職場で活躍している。

今回、復帰する母親ディレクターたちも、また、彼女たちを受け入れる会社共に、それぞれハンデを負い、仕事に当たることになる訳だが、この試みをボクは実はとても楽しみにしていることも事実だ。

彼女たちに続く若い女性スタッフも沢山いるだろうし、本当に本人たちと会社両方の関係が上手く保たれて、それが仕事的にも納得の行く形で運べれば、言う事は無い。
一見、会社にとってはリスキーにも見えるが、これをプラスにして行く方法は必ずある筈だ。

ボクは、今後もそういう母親たちを出来る限り応援するつもりでいるが、そのためにも、今回積極的に職場復帰を果たそうとしている2人の0歳児母親ディレクターたちが満足してモノを作って行ける環境と条件を整えて、復帰して良かったと本人たちも会社も喜べる結果を生み出さなければならないと、これはこれで、真剣に考えているところである。
 
  「二兎を追い 二兎を仕留める 復帰かな」


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春が来た

暦はまことに正直で、3月の声を聞いた途端に、急に春めいてきた。
今月の7日で、会社設立30周年を迎える。
これまでお世話になった方々をお招きしてささやかなパーティーを開く予定だが、その準備やその他モロモロの雑事が重なり、しばらくブログの方に手が回らなかった。
ボクの拙文を楽しみにして頂いている方々もいて下さると聞いているので、申し訳なく思っている。
3月7日のパーティーが終わり次第、再開したいと思っているのでお許しいただきたい。
取り急ぎ。

「春来れば 夏遠からじ また冬も」





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プロフィール

馬鹿社長

Author:馬鹿社長
【小田昭太郎】
株式会社オルタスジャパン代表取締役

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